あゝあこがれのMIDI音源:Roland SC-88Pro

昨年から仕事の都合でMIDIの楽曲を延々と聴く機会が増えた。Windows標準のMicrosoft GS Wavetable SW Synthの音に耐えられず、TiMidity++ DriverやYAMAHA XG WDM SoftSynthesizerを使っていたのだが、ここでふと「ソフトウェアMIDI音源の将来ってあるのだろうか?」と疑問に思ってしまった。

1990年代後半、「RolandYAMAHAMIDI音源DTM」というのが流行っていた頃の流儀で作成されたMIDIの楽曲を聴くような場合、確かにソフトMIDI音源は重宝する。しかしOSの変化――特にWindows Vista以降のOSに対応できずに使えなくなってきている。

これは「その当時のスタイルで使えるハードウェアMIDI音源」も含めて開発/サポートのコストに見合うだけの需要が見込めない為に、楽器メーカー等々が手を出さなくなっているからだろう。

ハードウェアリソースが潤沢になったことでMP3やAACといった音の波形データを抱える音声ファイルフォーマットが主流になり、それに伴いMIDIで楽曲を作成したとしても音源で再生させてWAVなりMP3なりに変換するようになった。少なくとも一般ユーザが直接MIDIに触れる機会は減っている。

素人考えだが、MIDI音源の開発は(例えソフト音源でも)それなりにコストがかかるはずだ。MIDIのデータが所謂「楽譜のようなもの」である以上、実際に発音する音の波形データが必要な訳で、何らかの方法でそれらの音をレコーディングしなくてはならない。この点はオープンソースでの音源開発で難しい点だろう*1。さらにヒトの聴覚は結構鋭くて応答時間の要求が厳しいので、ハードウェア音源の開発ではハードウェアスペックやら制御ソフトウェア開発やらでお金がかかるし、ソフトウェア音源ではリアルタイム性に劣るWindowsMacでその要求に答えなくてはならない。ついでにWindowsの64ビットドライバは署名が必要になるのでお金がかかるし……*2

それが売れないとなれば商用ベースでの開発はできないし、オープンソースでの開発は様々な問題でちょっと厳しい*3

まあともかく、そういった妄想とも思える悲観的な思考に浸る余り、「今のうちに中古でも良いのでハードウェアMIDI音源を確保しておこう*4」とボーナス片手に街に繰り出してしまったのだ。

で、どの音源を買うかだが、とりあえず2台買う予定でうち1台はほぼ決定していたので、もう一台は予算の都合で選ぶことにした。

その結果選択したのが、Rolandの名機SC-88Proだ。

90年代後半のDTMを語る上で外せないSC-88シリーズ、その決定打とも言われる音源。当時、少なくともホビーユースの範疇でハードウェアMIDI音源といえばSC-88シリーズが有名だった。

特に私が使っていたNECのPC-VS20CはオンボードYAMAHA YMF715Eチップで音を鳴らしていて、MIDIはチップ内蔵のFM MIDIシンセサイザーでピープー鳴らすか、バンドルされていたRolandのソフト音源VSC-88に切り替えて発音タイミングが一歩二歩と遅れた感じで演奏を聴くしかなかったので*5、尚更憧れていたものだ。

その憧れも、後に組んだ自作PCSound Blaster PCI128やAOpen AW744 Proといったサウンドカードを使うようになるまでだったが。

実際に実機の音を聴いてみたが、何となくこもり気味に感じる。明らかに2009年現在の水準と比較すると見劣りする。しかし考えてみればSC-88Proは1996年の、13年前の製品だ。現在と比較して遥かにチープなハードウェア環境では、内蔵の波形データも現在の水準より低い周波数・ビットレートにならざるをえなかったことは想像に難くない。

何より当時の自分が聞いたら涙を流して感動する程度のクオリティは備えているのだ。

古いSMFはSC-88互換のMIDIで作成されていることが多い。これから重宝しそうだ。大事に使わねば。

*1:手間とか、権利の問題とか。

*2:専用のPlayerとして提供するならともかく、他のPlayerからも音を鳴らせるようにしたい場合、Windowsでは仮想デバイスとしてソフト音源を提供しなくては駄目なはず。

*3:とはいえTiMidity++ Driverのような例はあるが。

*4:ハードウェア音源ならLinuxでも使えるみたいだし……恐るべしLinux

*5:その頃はバックグラウンド・ミュージックがMIDIであるゲームが圧倒的に多かったので、FM MIDIシンセのピープーもソフト音源の一歩二歩遅れも正直悲しかった。